とある土曜の夜。
終日バッグに入れたままだった携帯を取り出すと2件の着信。
どこか見覚えのある市外局番は埼玉県某市からのもの。
現在俺は兵庫県に住んでいる。
埼玉にも住んではいたが、友人からの電話であれば携帯からかかってくるであろうし、仕事関係なら仕事用の携帯にかかるはずである。
まぁ、よくある保険の勧誘とか営業電話か間違い電話であろう。
いつもならさほど気にせず再度かかってくるのを待ち、折返しなどしないのだが2回着信音があったというのが少し気になる。
着信時刻は15:42と17:50。
微妙に連続してないところも妙に気になる。
唐突な電話。過去に住んでいた埼玉からの、、固定電話からの着信が2回。
陳腐なテレビドラマの始まりにありがちな展開だが、やはり浮かぶ言葉は
『俺は何かやってしまったのだろうか。』である。
しかし、後ろめたい事など何もない。
いや、本当にそうか?
うん。まず事件に巻き込まれるような生き方はしていない。
ハードボイルドとは程遠く、ソフトでマイルドに生きてきた。ちなみに体型もソフトでマイルドである。
友人達からは『羊の皮をかぶったカピバラ』などと呼ばれた事からもその生きざまは推して知るべし、
淋しいと死んでしまう青いウサギのうような小心者。
みんながみんなトンガってしまう15才の夜ですら盗んだバイクで走り出さなかったほどである。
そんな生活なので事件性がない事に自信はあるがやはり気になる。
一応、折返しの電話をしてみる。
出ない、、。
気になりすぎてもう深夜2:00。当然だ。
ネットで電話番号を検索。
埼玉のクリーニング店がヒット。よく利用していた店だ。
事件の疑惑から解放され一安心。
あってもクリーニングに出した服を引き取り忘れたとかそんな程度だろう。着払いで送ってもらえれば済む話だ。
いや、、。
本当にその程度だろうか?
そういえば当時、、。
コンビニで買い物をした時に、キャンペーンか何かで『AKB48の生写真』をもらった。
当時40代半ばの俺には不要。
家に持ち帰り妻に見られるのも憚られるが、なんとも捨てがたい。
この手のアイドルが好きか嫌いか問われれば、どちらかというと大好物であった俺はそっとコートのポケットに忍ばせた。
そんな記憶が蘇る。
そうだ、間違いない。
そのコートをそのままクリーニングにだし、あの『AKB48の生写真』が見つかってしまったのだ。
そして恐らく店舗の女子高生バイト達が
『何コレ〜、ちょーキモいんですけどー』とか
『あのオッサン、あの顔でアイドルとかー、まじ卍ー』とか
『40代でAKBとかー、チョベリバー』とか
言われてるに違いない。うん、間違いないっ!
キモいという批判は甘んじて受けよう。しかし『AKB48の生写真』は、、いやコートはなんとか返却してもらいたい。
ネット情報によるとクリーニング店の開店は9:00。
妄想を膨らますうちに現在時刻は7:20。あと少しだ。開店直後に電話をしなければなるまい。
結果。
昨日の電話は住所変更の確認。どうやらクリーニング店のダイレクトメールが毎回返送されてしまうので確認の電話だったそうだ。
そしてコートも家にあり、あの写真も無事であった。
結論。
全国3000万の引っ越しフリークのみなさんに伝えたい!
引っ越しの際、スタンダードな住所変更はもちろんだが、
忘れがちな商店街の会員カードやスタンプカードの住所変更こそが本丸。
最大の敵はそこにいるのですっ!
なんだかんだで、土曜の夜からの徹夜で仮眠をとった日曜日も無駄にしてしまった。
まぁ、これも良い経験だ。一杯やって寝るとするか。
ふと携帯を見ると
時刻は日曜日の22:30。
2件の着信。どこか見覚えのある市外局番は以前住んでいた富山県某市からのもの、、。
眠れぬ夜は続く、、、。
【fin】
( 兵庫県 薬剤師 40代 男性 )