♪もーあと330回くらい寝ぇーたぁーらぁー 来年のお正月ぅ~
これ以上歌ったらクビになってしまいそうでビクビクしているハイテンション難病おじさんです。
前振りの歌とは全く関係なく、(一応)医療に関連することで一般用語で使われる場合と専門用語で使われる場合とで大きく解離(離れること)がある、すなわち誤解の多い 言葉を、シリーズでお届けしようかと思っています。(タイトルに深い意味などありません。)
栄えある第一回目は「傾聴」についてです。
■一般用語としての傾聴
突然ですが、傾聴している人を思い描いてみてください。たぶん、冒頭のイラストみたいな感じで、
眼を瞑ったり
頷いたりしながら
受動的に「きいて」いる人
を思い浮かべる人が多いんじゃないでしょうか?
(イラストは、「傾聴 イラスト フリー」でグーグル検索して最初のほうに出てくるものです)
「きいて」としているのは、漢字が書けないわけではありません(苦笑)。「傾聴」なんですから、「聴いて」とすべきなんでしょうけど、本当にこのイラストの人が「聴いて」いるか?それとも「聞いて」いるか?が分からないので、あえてひらがなにしているんです。
■「聴く」と「聞く」の違い
またまた突然クエスチョン。「聴く」と「聞く」って、何がどう違うんでしょう???(もちろん、先を読む前に一度考えてみてくださいね。)
例えば、カップル同士の会話で、
♀ 「ねぇ~ いまの話、ちゃんと『きいて』たぁ?」
♂ 「もちろん『きいて』たよ」
♀ 「じゃあ、今の話繰り返してみて!」
♂ 「………………………(汗)。….ごめん。」
なーんてのはよくある話です(よね?)。これが、どうして起こるのか??
(♀を先生、♂を学生に置き換えても、同様のやり取りが頻発します(苦笑))
言葉の意味を深く考えるときには、辞書を引くのが良いです。(∵言葉本来の意味に立ち戻ることができます。)デジタル大辞泉によると、
※ただし、改定したばっかりの辞書には間違いがあるかもしれないですので、特に新語には気を付けましょう! (こんなことを書かなきゃなんて、もう、じえんど….。)
きく【聞く/聴く】
1 音・声を耳に受ける。耳に感じ取る。「物音を―・く」「見るもの―・くものすべてが珍しい」「鳥の声も―・かれない」
2 (聴く)注意して耳にとめる。耳を傾ける。「名曲を―・く」「有権者の声を―・く」
言い換えるなら、
・単に音として感じ取っているだけで、意味が頭にとどまらない程度なら「聞く」
・注意深く内容を頭にとどめようとしていたら「聴く」
したがって、先の例でいうと、
♀(や先生)は『聴いて』もらいたくて話しますが、
♂(や学生)は『聞いて』いただけだったんで、すれ違いが生じるわけですね。
※ちょっと脱線。 毎日新しい情報を、もんのすんごく沢山の文字で出すので、とりあえずそれを読む時には「聴く」ほどではなく、「聞く」程度にし、深く掘り下げたい時にはきちんとした資料を読むべきなので、「新聴」ではなく、「新聞」なんですねぇ…。
■専門用語としての傾聴
心理学や医療の分野で用いられる「傾聴」は、英語のActive Listeningに対する日本語訳と考えられます。
心理療法の1つに「来談者(クライエント)中心療法」というのがあります。「クライエントには、問題を解決する能力が備わっている」との前提に立ち、クライエント自身に解決方法を見出してもらうお手伝いをする治療法です。
Active Listeningは、この「来談者中心療法」の中心を担う技法のひとつで、
・「無条件の肯定的感心」をクライエントに示し、
・クライエントの感情表現を「共感的に理解」し、
・必要に応じてクライエントの表現感情をそのまま、または要約して返し(「感情の反射」)、
クライエントが問題解決できるように促します。
専門用語としての傾聴をしている人は、
積極的に感心を示し、
適切な相づちを打って、
能動的に「聴く」、
必要があります。眼を瞑って頷いて受動的に聞いているだけではもちろんダメですから、上のイラストの女性のような態度では、Active Listeningとはいえない確率が高そうです。
■なんでこんな齟齬が生じるか?
科学的な専門用語の中には、日本で生み出された純粋な日本語ももちろん存在しますが、医療系のものになってくると「外国から輸入して日本語に翻訳した用語」が大半だと思います。
辞書に載っている用語だけで構成されている文章の翻訳も大変なんですから、辞書に載っていない新しい言葉に日本語を当てはめる作業は、想像を絶するまさに「創造」。しっくりくる素敵な言葉を「創造」できる場合もあるかもしれませんが、しっくり来ないを通り越して「誤訳?」と思しき用語を当てはめてしまうこともあります。
で、Active Listening→傾聴は、「聴く」の意味を本来的に考えると実は適訳。ただし、日本人の大半が傾聴しているときに「聞」いちゃってるんで誤訳っぽくなっちゃってるといえるんじゃないかと。(誤解を生じやすいので「積極的傾聴法」などと呼ばれることも多いようですが、何となく重言っぽいです。)
■Active Listeningをする上で大切なこと。
(1) クライエントに指示を与えないこと
「問題解決のための能力はクライエントが持っている」のですから、「こうしたほうがいい」などといったアドバイスはしません。Active Listeningをする上で最も大切な基本姿勢です。
(正しく薬を使うように指示することも薬剤師として必要ですから、服薬指導の全てのシーンにActive Listeningを応用することはできませんが、薬以外の医療の相談や、生活上の悩みなどに応じる場合もありますので、技法を身につけても損はありません!)
(2) 自分が「自己一致状態」にあること
・自己概念(自分の感情とか、自分がどういう人なのか?など)
と
・自己経験(↑をどのように実際に表現しているか?)
が一致していることを、自己一致状態といいます。(一致していないと自己不一致)
ざっくりいいかえるなら、「こうしたい自分」と「こうしている自分」とでも言いましょうか。
「こうしたい」ので「こうしている」 →自己一致状態→ストレスは溜まりませんが、
「こうしたい」のに「こうしていない(できない)」 →自己不一致状態→ストレスが溜まります。
Active Listeningは、クライエントの自己不一致状態による苦しみを改善するための手段です。聞き手が自己一致状態になければクライエントに自己一致を促すこともできません。カウンセラーとして自己一致を目指す過程が自分自身の成長にもつながりま すので、がんばってチャレンジしてみてください。
※ちょっと脱線。 多くの悩みに応用可能な技法ではあるんですが、自己不一致が原因ではない病態と考えられる、境界性人格障害やいわゆるサイコパスなどには全く効果がないと言われていますので、万能ではないこともご承知ください。
(3) 無条件の肯定的感心を示すこと
クライエントが、どんなに眉をひそめてしまいそうな、自分(聞き手)の価値観には沿わないことを言ってきたとしても、無条件に(批判や否定などはせず)受け入れて(いるとクライエントが思えるように)感心を示します。
自分(聞き手)の考えを押しつぶして、クライエントの考え方に合わせようとする必要はありません。「なるほど、そういう考え方もあるんですね~」と受け止めてあげればいいんです。
とだけ読むと、これも薬剤師には関係ないのでは?と思うかもしれませんが、かなり使えるテクニックです。
例えば、服薬指導の時に「この薬は、1日3回も飲みたくねぇんだ」などといったことをおっしゃる患者さんがいらっしゃったとします。 患者さんのためにはもちろん1日3回飲んだ方がいいに決まってますので、『現在の症状にはお薬が必要なのですから、お薬はきちんと3回飲んでくださいね』と、相手の病状に気遣いながらアドバイスしたいのは山々です。
ところが、実は患者さんの多くは、医師の指示通りに薬を飲んだほういいことはわかってらしゃいます。言い換えるならば、「わかっちゃいるけど、何らかの理由3回飲めていない」。そんな時に、理由も聞かずに『3回きちんと飲んでください』なんて言われても、心には響きませんよね?(皆さんも、頑張ろうと思ってるんだけど頑張れてない宿題とか勉強とかを、親から「やりなさい」と頭ごなしに言われて頑張れなくなった経験はあるはずです(苦笑)。)だから、NGな行為を否定せずに受け止めてあげる。すると「ああ、この人は私のことを分かってくれようとしてるんだー。正直に思っていることをしゃべっても叱られないんだー。」と心が軽くなって、「どうしてNGな行為をしてまうのか?」の原因を話してくれやすくなるのです。経験を積んでいけば大体典型的なケースを思いつけるようになると思いますので、
『ああ、確かに1日3回のお薬って、外出する際に薬を持って出るのを忘れたりすることが多いから、なんとかならないかな?っておっしゃる患者さん多いんですよねー』 とか
『ああ、確かにこの薬って、○×な副作用があるんで、途中でやめたいとおっしゃる患者さんがいるんですよねー』とか
他の人も同じようなことで悩んでいるんですよー という呼び水をしてあげると、どうして医師の指示通りに薬を飲めていないのか?を話してくれやすくなります。(聞き出した情報を元に、解決策の提案をすることもお忘れなく!)
■最後に
もちろん、これを読んだだけでいろんなことができるようになるわけがありませんので、興味を持った方はいろんな書籍等でしっかり勉強してくださいね!(←もちろん、「あんたが言ったとおりにやったのにうまくいかなかったぞ!どうするんだ?」というクレームから逃れる為の、大人の知恵でございます。)
40代 薬剤師