♪ちゃららららっ ちゃららららっ ちゃららららっ ちゃっ ちゃらららららー でーん でーん でんでんでん…(世にも○妙な物語風BGMでお読みください)
皆さんは、処方せんはプリンターから印刷されて、日本語表記で出てくるものであると思い込んでいませんか? 電子カルテシステムから処方せんが簡単に印刷できるようになってからめっきり減りはしたものの、平成&21世紀になった現在でも「完全手書き処方箋」に出くわすことが月に1回位あります。(手書きで医師が書き足したりした分を含めれば、週に1回位は手書きの処方を目にする機会があるでしょう。) 今回は、知られざる 「手書き処方せんの世怪」 (と手書きカルテがまねいた悲劇の世怪)にお連れしましょう。(念のため言っておきますが、わざと世怪ってかいてますからね…。世界くらいわかりますからね….)
はじめに
処方せんは、専門家(医師)から専門家(薬剤師)への情報伝達のためのツールですから、読み手に伝わりさえすれば、必ずしも解りやすく書いてある必要はありません。しかも、具合の悪い患者さんを目の前にしていれば「一秒でも早く帰らせてあげたい」と考えるのは医療人としては当然の姿勢ですから、処方せんを手書きする場合には「できるだけ手短に書こう」として達筆になってしまうのも無理ないといえましょう。
処方せんを正確に読み取ることも薬剤師に求められる能力の一つです。昔の常識、今の非常識と突っぱねるのではなく、昔ながらの手書き処方せんがきたとしてもうろたえないだけの準備をしておくことが大切です。
レベル1 解らないと本当にヤバいやつです。(疑義照会禁忌)
手書きで 例えば
【般】セフカペンピボキシル錠100mg 3錠 分3 毎食後 5日分
なんて書く先生はまずいらっしゃいませんので、手書き処方せんは略号を駆使して記載されることが一般的と考えられます。日本の医療はドイツ語圏の強い影響を受けてきていますので、英語中心となった現代でも略号等でドイツ語が出てきます。(カルテもドイツ語。英語ではカードです。)
一番よく目にするのは、食後を表すndeでしょうか。
nach dem essen の略でして、
⇒「nach dem ??」 が 「??の後で」、
「essen」 が 「食べる」
なので食後となる、なんてのはネットで調べれば簡単にできます(だったら書くな?)。(あ、nde=毎食後だと勘違いしている方が稀にいますが、間違いですからお気をつけ下さい。)
食事に関連する用法だと、食前、食間があり、それぞれvde、zdeと表現します。寝る前は vds(vor dem schlafen⇒「vor dem ??」が「??の前で」、「schlafen」が「寝る」)と知っている人は多そうですから、vdeは食前と想像つくかもしれませんが、食間という用法自体が使われることが少なくなっていますので、zdeにはなかなか出会わず、覚えるのも大変….。
私が、薬剤師を始めたばかりの頃に、ある先輩薬剤師が教えてくれました。
「文字が開いている向きをみて、
v : 上だから前
z : 横だから間
n : 下だから後 と考えると、覚えやすいよ」 と。
最初に聴いたときは、あまりにも初心者過ぎてこれらの用語に出会うことが少なかったので実感できなかったのですが、10年以上経ってからスルメのように教えが浸透してきています(笑)。さらに、
M : morgen → 朝
T : tag → 昼
A : abend → 夕
? TD:「Gebe? tage Dosen」で「 ?日分投与せよ」なので、略して「?日分」
くらいまでを覚えておけば、内服薬の用法はほぼ網羅できるんじゃないでしょうか。
これは、処方せんを読み取る時だけでなく、問い合わせ内容などの記載にも役に立ちます。
例えば、 フェキソフェナジン(60) 2T 2× MA nde 14TD 追加 なんてすらすらっと書ければ、ちょっとかっこいいでしょ!?(って思うのは、私だけ?)
(他の略号は、Google先生に教えてもらってください(笑)。)
レベル1’ 意外と知らない眼科のせかい(これも疑義照会禁忌)
若い方たちが解らなくて悩んでいるのをよく目にするのが 眼科の処方せんに書いてある B の意味。
R : right 右眼
L : left 左眼 は直感的に解るようですが、
B : both 両方 = 両眼 です!
レベル2 診療科、薬の規格、添付文書通りの用法から推察する
どんなに達筆な先生でも、比較的数字は判別がつく場合が多いです。読みづらくとも、全体を見渡すと同じ数字が何度も出てくる場合が多いので、「こっちは明らかに4、書き方が違うからこっちは9だ!」などと読み解くことができます。
また、きりの良くない数字の規格の薬がありますので、そこを足掛かりとするという手もあります。例えば、112.5とか225なんて数字を見ればプランルカスト(オノン)くらいしかありません。75mgだと何種類かありますが、例えば消化器ならニザチジン(アシノン)、整形外科ならプレガバリン(リリカ)と考えることが出来ます。(100とか200とかよく見る数字でも、診療科で絞ればけっこう限定できるはずです。)
そこで、「ああ、これ、リリカの事か!」と気が付くことが出来れば、他の部分に書いてあるサインが急に読めるようになることがあので、何処かに突破口を開くのが大切です。
(なお、暗号解読結果が誤っている危険性がゼロではないので、患者さんの症状と合っているか?をしっかりと調剤前or投薬時に確認することが大切です。)
レベル3 ここまで来るとひらめきクイズです(笑)。(手書きカルテ→ワープロで処方せん発行の悲劇)
「ア と マ」 「ツ と シ」 「テ と ラ」 「ソ と リ と ン 」 「ク と ケ と ワ」など、もともと間違いやすい同士のカタカナもありますが、次の奴はかなりの難問でした。
【問題】 整形外科のDrの処方せんに「サルックス」と記載がありました(手書きではなく、プリントアウトされた文字で明確に打ち出されています。) さて、この薬いったい何でしょう?
手書き処方せんの場合は、単一規格しかない薬の規格は省略されることが多いです。ここの医療機関は当時電子カルテシステムが導入されておらず、手書きのカルテを元に事務スタッフが処方せんをワープロ打ちし、さらに医師が手書きでいろいろ書き込むという、ステキな処方せん発行システムが導入されていました(苦笑)。
保険薬事典だけでなく、今日の治療薬や治療薬マニュアルにサルックスなんて薬は載ってませんし、ネットで調べても当時は全く引っかかってきませんでした。(現在Google先生に伺うと正解が一発で出てきちゃうんですけどね(苦笑))
【正解】 サノレックス (成分名:マジンドール)
通常整形外科から出るような薬でもない上に、病院の採用薬ではなかったため、全くピンときませんでした(苦笑)。「ノとレの間をDrが狭く書いてしまっていたので、サノレックスを知らない事務スタッフが「ノレ」ではなく「ル」と読み取ってワープロで打ち直してしまった」が真実でした(笑)。
私には、この経験がありましたので、次の患者さんからの電話問い合わせにも答えることが出来ました(笑)。
【問題】 以下の質問は、YES or NO?
「今、ものすごく気持ち悪いんだ。ちょっと前に他の薬局で貰ったアルキシノンって薬があるんだけど、飲んでもいい?」「5mgって書いてある。」
これも現在Google先生に伺えば正解が出てきますが、当時は全く出てきませんでした。 そう。これも「ノレ」を「ル」と呼んでしまっているので、薬の名前は「アノレキシノン」=メトクロプラミド。
ゆえに、【正解】 は yes(ただし、病院に行くまでのつなぎとしてお使い下さいと言い添えるのをお忘れなく。)
まぁ、ただ、写真を見る限り、アルキシノンって読んでもおかしくないですよね(苦笑)。
(ていうか、「検索エンジンの進歩ってすごい」と、この記事を書いていて思っちゃいました。)
レベル4 それでも解読出来なかったら….
お問い合わせするしかないですね(苦笑)(最初からあきらめたら、そこで試合終了ですよ。)。疑義照会が必要なレベルの処方せんを出している医療機関は、この手の電話にとても慣れていることが多いので、
「お忙しいところ申し訳ありません。○×様の処方せんをお預かりさせていただいたのですが、処方の?番目の文字が達筆すぎて….」
と言えば快くカルテを確認していただいたり、医師につないでいただけたりします(笑)。
おわりに
ここに書いてあることは現実感がないと思う方も多いと思いますが、薬剤師の仕事をAI(人工知能)に奪われないようにする為にも、手書き処方せんを読み取ろうとする姿勢だけは生涯無くさないようにしましょう!
40代 関東勤務の薬剤師